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「あー……彼氏欲しい……」
カラオケ『うたころね』の一室、一人テーブルに突っ伏した私は誰に無く呟き、側にあるマイクを手に取って徐に立ち上がる。
「彼氏欲しい! イチャイチャしたい! ていうかぶっちゃけセックスしたいんじゃボケェエエ!!!」
欲求不満の乙女は肉食です。実際ね、女の子だって溜まるんですよ。だからね、こうして叫ばなきゃやってられない時が有るのは私だけじゃない……はず。うん、自信無くなってきた……。
「うわぁあんっ! 一人カラオケとか超虚しいよぉお!?」
「……ユッキー、今のシャウト、廊下までだだ漏れだからね? お願いだから、そういうのもう止めて……?」
泣きじゃくる―実際泣いてないけど―私の目に映ったのは、露骨に嫌な顔をして扉を開けたまま立ち尽くす羽山 可奈子(はやま かなこ)、私の親友だ。ストレートロングがさらりと輝く超可愛い子だが、今は表情のせいで台無しである。私はマイクをその辺に捨てて、漸くやって来た彼女に抱き着いた。
「もぉおお! 可奈子遅いよぉお!? 私が欲求不満と虚しさのデフレスパイラルみたいな死の嵐に飲まれて死んでも良いのぉお!!?」
「トイレ位で大袈裟だから! まだ五分も経ってないでしょうに!」
「五分も有れば一発イケるよ!? はっ、まさか可奈子、私に隠れて一人トイレで!? ねぇ、やったの!? ねぇねぇねぇ!!?」
「ぬぁああ、もう!? 煩い! ちょっと黙ってよビッチ! そしてハ、ナ、セ!!!」
無情な親友に引き剥がされ、私は涙ながら―実際一滴も出てないけど―に席に着く。
「……はぁ、私の悲しみを癒してくれるのはアナタだけだよ、イチゴミルクさん……」
呆れた顔で向かい側の席に座る可奈子を横目で窺いつつ、イチゴミルクの満たされたグラスにストローを刺す。何処か寂しいお口にストローさんをくわえ、私はピンク色の液体を吸い上げた。ばきゅーむっ! イチゴミルク、飲まずにはいられない!
「ユッキー、早く曲入れなよ……来てからそればっかで、一曲も歌ってないでしょ? というか、お腹壊すよ?」
ちゅうちゅうと、ピンク色の液体を嚥下する私……ふはぁ、満たされるぅ。
「イチゴミルクってさ、語感的にも見た目的にもえっちだよねぇ……ばきゅーむ!」
「ちょっとは人の話聞けよ!? このクソビッチ!」
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