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「さぁ、遊びもここまで。出発よー」
よいしょ、と私を引き起こし、何時も通りの笑顔を浮かべるお母さん。日常と、非日常。瞬間、その境界が曖昧になるのを、私はひしひしと感じた……。
「雪ー、何やってるのー? 行くわよー?」
ふと気付けば、既に視線の先の扉は開け放たれており、その境界線の向こう側に広がる真っ白な外界から、異物の様な闇色のそれが私を呼んでいる。それはまるで、異界から手招く悪魔の誘い。進めば、二度と戻れない。そんな感覚すら覚えさせる、あまりにも飛躍した非日常……。
「……待ってて、今行くー!」
なんて、何をそんなに恐れているのだろうか。境界線など、昨日とっくに飛び越しただろうに……。沸き上がる恐怖を苦笑と共に噛み殺し、私は再び境界線を飛び越した……。
「お待たせー」
「うふふ、それじゃあ行きましょうか」
白銀の世界……私とお母さんは仲良く並列、サクサクと音を立てて道無き道を歩き始めた。
「ところでお母さん」
「なぁに?」
「……こんな未曾有の大災害の中、スーパーなんてやってるの?」
立ち止まり、顔を見合わせる私達。冷たい風が、その間を吹き抜ける。
「………………やってるんじゃない?」
「今の間使って尚その解答!? 可奈子に教えて貰った精神科の先生紹介しようか!?」
お母さんは、何処までもお母さんだった。その事実に、少しの安心と多大な頭痛を覚えつつ、歩みを進める……。
「じゃあ、お母さんコッチだから。スノーマンに気を付けるのよー?」
「はいはーい……お母さんも気を付けてね……」
小さく可愛らしく手を振るお母さんに、お座なりに手を振って返す。全部白で埋もれたこの町で、スーパーの場所とか分かるのは専業主婦たる賜物か。次第に小さくなる闇色の背中を見送り、私も歩みを進める。
「ダニエルー、一応確認だけど……こっちで間違いない?」
『うん、その方角をそのまま真っ直ぐ』
ダニエルと合体した影響か、私は感覚が異常に鋭くなっていた。例えるなら、頭にレーダーを搭載した感じ。周囲を、かなり広い範囲で認識出来る。そのお陰か、ミラクルモンスターなる存在も肌で感じる事が出来た。まだ、何となくの領域ではあるが……。
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