魔法少女、出勤しました

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 身体の火照りも最高潮へと達した辺りで、私は吹雪が最も激しい場所に辿り着いた。 「……ここね」  足を止めた私は目を凝らし、吹雪のフィルター越しに世界を見回す。かつての町は見る影もなく、代わりに建つのは世界各国の建造物を模倣した氷塊。逃げ遅れたのか、道々で氷付けにされた人々。そして、最奥に作られた氷の玉座……。そこに、白の中でも一際目立つ、巨大な白銀の獣が座していた。 「ほぅ……誰かと思えば、いつぞやのペンギンじゃないか……あの時は世話になったな」  美しく、しかし威圧的な声が、白銀の獣より紡がれる。巨大ではあるがその姿は紛れもなく……白熊のそれだ。その片目には、ざっくりと太刀傷が刻まれていた。 「愚かにも、まだ人間の味方をしているのか……地球環境を破壊し、我々から居場所を奪う人間の味方を」 「話し合いの余地など最早無いぞ、スノー・クイーン! 華子(かこ)ちゃんの命を奪った貴様を、僕は許さない!」  私の喉を使い、ダニエルは叫ぶ。それを受けたスノー・クイーンは、やや大袈裟に俯いて嘆息する。 「やれやれ……元を辿れば貴様が悪かろうに……貴様が見初めねば、あの美しい少女は死なずにすんだ……違うか?」 「黙れぇええ!」  ダニエルの怒りに感応した私の身体が、無意識に動いた。双剣を構え、大地を踏み砕かん勢いで地面を蹴る。殺人的な勢いで吹き付ける吹雪を切り裂き、神速のドリルがスノー・クイーンへと突撃をかけた! 「滑走穿孔剣!」  速度、回転力、共に先程放ったそれとは比べ物にならぬ激しさ! 怒りのドリルが、スノー・クイーンの心臓を貫く! 「……やれやれ、同じ事の繰り返しか?」  成らず、しかしそれは成らず。嘆息混じりの言葉を吐くスノー・クイーンの1m手前の中空にて、私の身体は制止していた! 『しまった!? “絶対氷壁(アイスシールド)”か!』  そう……私の身体は分厚い氷壁にぶち当たり、勢いを殺されていたのだ……。退路も無いまま、無防備な状態で敵の前に晒される私。 「ゆ、雪ちゃんピーンチッ!?」 「……貴様には期待していたのだが、全くもって……期待外れだ!!!」 「『うわぁあああ!!?』」  座った姿勢のまま放たれてベアパンチは、氷を易々と砕きながら私の身を吹き飛ばした。
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