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「ん?」
そこで何故か私の目が、カーテンを開いて現れた窓越しに、“ゴリラ”の顔面を捉える。思わず窓を開けて目を擦り、もう一度凝視。うん、紛れもないゴリラだ。ゴリラ似の人間ではない。若干の混乱を覚える私を真剣な表情で見詰めていたゴリラは、徐に口を開いた。
「……小生は、ただ世界を漂う風と同じ……構わずとも、それはまた良し……そこにはあるが、ただただ漂う。故に君よ、己が生命を激しく燃やすといい……朝日で煌めく美しき妖精の君よ、時間は有限だ……無限では無い」
うわっ、むっちゃ渋くて良い声だ。しかもなんだか、言い回しが詩的に知的だし。ゴツい見た目と違って、インテリさんなのかもしれない。
「あっはい、では遠慮なく」
そんなゴリラの言葉に甘え、私はダニエルと甘いピロートークを繰り広げる為にベッドに戻る……訳ねぇだろ。
「ぬぅ!?」
「おいこの覗き魔ゴリラ……テメェ何時から見てた、吐け」
振り返り様に、ゴリラの頭にアイアンクロー。返答によっちゃ、コース金額を変えてやっても良い。勿論全部死刑コースだけどね!?
「ほぉ……小生に、このヨシフに素手で、しかも腕力で勝負を挑むとは大した気概……その気概に免じ、今止めれば全て水に」
「ヨシフ、ダーイ☆」
私は、死刑を敢行する。こんな状況で質問にも答えず、あまつさえ調子に乗って喋るゴリラなんざ挽き肉にして、汚物と一緒にトイレに流してやるわ。込められた力に呼応して、私の指が音を立ててヨシフと名乗るゴリラの顔面に深く食い込む。
「……ッ!? よっ、妖精にあるまじき腕力の調べ……流石、魔獣の血系譜は伊達ではない……!?」
おっ、雪ちゃんのアイアンクローを食らってもまだ喋るか。根性あるな。大抵の男は、これで泣き叫んで平謝りすんのに。そんなヨシフの態度に、雪ちゃんの嗜虐心に火が点いた。
「パワー、アーップ☆」
「オゴゴゴゴッ!!?」
奥から響く軋む音に、流石のヨシフも悲鳴を上げた。口から泡を吹き、抵抗し始める。そろそろ仕上げだ。
「よい、しょ……噛砕竜巻投ー!」
「!?」
部屋の中に強引に引き込み、必殺投法。ジャイロ回転して吹き飛んだヨシフは、漏れ無く派手な音を立てて壁に激突、突き破り室外へと消えた……。あーあ、壊しちゃった……まぁ、大丈夫か。お母さん魔女だし。
「さて、と……次は貴様だ」
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