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名前を言われて驚いたのか、本郷さんは俯きがちだった顔を上げ、伏し目がちな目を大きく開いて、真っ直ぐな視線で私を射抜く。
「な、なんで……あたしなんかの事を……!?」
「何回か、学校で話したでしょ? 私、人の顔と名前を覚えるのは得意なの」
その視線を軽くいなし、私はため息混じりに言葉を吐いた。すると、視界の端でぽろぽろと泣き出す本郷さん。
「何で泣くのよ……今の泣くとこあった?」
「うぅ、ひっく、な、七原さんが、覚えて、覚えてくれてたんだって、あたし、うれ、嬉しくてっ……ううーっ!」
声を上げ、その顔をくしゃくしゃにして涙を溢す本郷さん……。実は彼女、学校では結構な有名人だ。勿論それは好意的な物でなく、“変態女”という否定的な物だ。学校で彼女を見掛けたものの大多数は、無視か嘲笑という二択で応える。
『告白を断られた男子のデマかと思ってたけど、予想外……変態なのは本当だったな……』
その理由は、ある男子生徒が告白した時の本郷さんの反応。何を思ったのか彼女は、人が変わったように饒舌(じょうぜつ)に、神だの悪魔だのと奇妙奇天烈(きてれつ)な言葉の羅列をその男子生徒に浴びせかけてきたらしい。あまりの豹変に唖然となる男子生徒に、興奮した様子の彼女は行動を要求した。
『取り出したカッターで自分の腕切って、血を飲めって……普通の奴なら引くよ……しかも、血の交換が終わったら、魂の結合の為にこの場でセックスしようとか……男子生徒も青ざめて逃げるわな、そりゃ』
要するに、この本郷珠枝という少女は、厨二病と異常性癖を拗らすに拗らせた電波系少女らしいのだ。
『パッと見は真面目で大人しそうだし、黙ってりゃそうは見えないんだけどねぇ……』
透き通る様な白い肌と華奢な体躯、それとは対照的に育つに育った巨乳……顔だって―今は酷いが―、モデルと言われりゃ頷く可愛さ。ゆるふわのボブカットも似合ってるし、センスの良いアンダーリムの眼鏡が良く映えてる。はっきり言おう、欲情を禁じ得ないレベルだ。そんな子に目の前で泣かれたら……ね。
「本郷さん」
「ひっく、うぅ……ふぇっ?」
「もう泣かないで」
静かに傍らに寄り添った私は、彼女の眼鏡をそっと外して唇を重ねた。
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