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彼女の悲哀を吸うように、その唇を貪る。自分でもどうかしてるとは思うが、悲しい時はこれが一番だ。快楽は悲哀を吹き飛ばし、空いた穴を埋める。例えそれが間違っていたとしても、誰がこの行為を責められようか。人というのは、それほど強くないのだから……。
「むっ、んふぅっ……」
驚き固まっていた本郷さんも、軈て自ら求めてきた。舌と舌が絡み合い、卑猥な水音が部屋に響く。口一杯に広がる鉄臭い甘さは、彼女の血の味なのだろうか……。
『そういや、さっきまで鼻血まみれだったっけ……』
ふと浮かぶ過去の映像が私を冷静にさせ、彼女のみを捉えていた視界を広くした。視界の端では、ダニエルが両翼で目を覆っている。流石私のダニエル、マジ可愛い。一方、本郷さんの相方であるヨシフは……ガン見である。
「……美しき淫魔達の織り成す慰みの調べ……美しく、淫らで、そして切ない……かくも悲しき淫靡なオーケストラ……小生は、その悲哀から目を逸らす事が出来ない……」
「ぷはぁ……! 自重しろヨシフ、この変態ゴリラ!」
激しく求める彼女をやや強引に引き剥がし、ヨシフの顔面を掴んで再びぶん投げる。一秒も立たぬ間に、ヨシフは壁に突き刺さった。
「雪ー? あんまり乱暴しちゃダメよー? 幾ら直せるからって、お母さんも疲れるんだからー」
そして直ぐに響いた、お母さんの間延びした声。叱る気があるやらないやら……。
「……です」
そんな私に掛かる、本郷さんの涙声。色々忙しいな、今日の私。
「あぁ、ごめんね途中で止めちゃって……で、何か言った?」
「酷い、ですっ……ファースト、キスだったのに……!」
うわー……やっちゃった。昔の私に似てるからって、勢いで慰めるもんじゃないなぁ……。
『ユッキーは大変な物を盗んでいきました、本郷さんの心です! ダメだよ、こういうのは同意の上でしないと! この魔女ビッチ!』
『うっさいダニエル、現に私は魔法少女』
『この魔法少女マジカルビッチ!』
叱ってくるダニエルを流しつつ、顔を両手で覆ってしまった本郷さんに詫びを入れる。
「ごめんね、本郷さん……私……ただ本郷さんに泣き止んで欲しくて……その、私も昔は色々あって……何となく、気持ち分かるからさ……」
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