魔法少女、始めました

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 懇願するペンギンを既(すんで)の所で引き上げ、再び給水タンクの上に座らせた。もし次また脱線したら、容赦無くベンキッスさせてやる……。そう心に固く誓ったお陰か、脳内お喋りペンギンはいやに饒舌に捲し立てた。 『……直接感応っていうのは、僕の能力だよ。正確には、僕だけが持つ物じゃないんだけど……僕の精神を対象者の精神に潜り込ませて、対象者に僕の意思を反映させる力なんだ。こうして頭の中でお喋り出来るのは、その副産物みたいな物さ』  丁寧な説明をして貰ってる所申し訳無いが、全く分からない。自慢じゃないが、私の成績は下から数えた方が早いのだ。無論、体育と保健体育の成績はトップクラスだけどね! 『……で、マジカルーキーってのは“マジカルーラー”になる素質を保有する者の事で……』 『オイこら無視すんな、今のは“床上手なんだね”って褒めるとこだぞ。それにテメーの説明は分かりづらい』 『むぎゅぎゅ!? なんて理不尽! 脱線しないで説明しろって言ったの君じゃないか!』  その柔らかい両頬を片手で力強く押し込む私は、この融通の利かないペンギンへ怒りと共に教訓を叩き込んだ。 『女心は秋の空!』 『変わりやすいのね分かりまぶふぅ!?』  チョップ一閃、我が手刀はペンギンの柔らか頭部に見事にめり込む。全く……大空の様に寛大な心を持つ雪ちゃんじゃなければ、首を千切り飛ばされてる所だぞ☆ 「……ねぇ、雪……まだ終わらないの……?」  と、良い感じにペンギンで遊んでいたら、外の可奈子がご立腹。暗く沈んだ声に、確かな殺気が宿っている。いやいや可奈子さん、アナタそんなキャラでしたっけ? 「……もしかして、中に誰か他にいるの……? 例えば、そう……“ペンギン”とか」  瞬間、扉の向こうの殺気が膨れ上がった。扉越しでも感じられる圧倒的な“何か”に総毛立つ。何か良く分からないが……このままじゃ、食われる。肉食獣を前にした小動物の気持ちが、この時始めて分かった気がした。原始的本能から鳴る警鐘が、私に“逃げろ”と告げている……。しかし、ここは密室。どうやって逃げろというのか。気が付けば、音を立てて震える私の身体。意思とは裏腹にストンと落ちた腰は、便座に縛り付けられた様に動かない……。 『どどどどどうしよう……こっ、腰が抜けて……動けない……!?』
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