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 昼食後、タツオはサイコに散歩に誘われた。サイコとは幼馴染(おさななじ)みだが恋愛感情はない。第一、没落した逆島(さかしま)家と近衛(このえ)四家にとどまる名門・東園寺家では、家格がつりあわないだろう。華族の家同士では、政略結婚が当たり前だ。もうタツオに価値はない。  木漏(こも)れ日のなかをサイコと歩いていると、子どもの頃に戻ったようだった。東園寺家の広大な庭園で、カザンやサイコや璃子(りこ)さま、瑠子(るこ)さまとよく遊んだものだ。あの庭にある池は一周するのに20分もかかるほどおおきかった。  数歩先を歩いていたサイコが振り返っていった。目が真剣だ。サイコほどの美少女だと、それだけで日本刀でも突きつけられたような感覚がある。美しさは人の心を斬る力だ。 「璃子さまのお身体(からだ)の調子が思わしくないようなんだ」
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