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「そうか、女皇のご一族というのは、なかなかおむずかしい……」
新聞や雑誌は女皇を日乃元最高峰の祭司にして、生ける神だと書き立てているが、タツオはそんなことを頭から信じているわけではなかった。ただときおり璃子さま瑠子さまが見せる引き締まった淋しげな横顔に、2700年を超える伝統と国体の重圧を見て、なんとかその荷を軽くするお手伝いができればと願うだけである。
「瑠子さまがおっしゃっていた。わたしはいいから、璃子お姉さまをお助けしてと」
「ぼくが? 無理だよ」
もう近衛四家でもない、ただの没落華族の三男坊である逆島断雄(たつお)に、そんなことができるはずがなかった。
「無理なら璃子さまに直接、自分でいいなさい、意気地(いくじ)なし。夏の総合運動大会にご臨席するご予定だから」
瑠子さまを失望させるのは嫌だった。それでもできないことはできないとはっきり申し上げなければならないだろう。サイコが挑(いど)むようにタツオをにらみつけた。
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