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「おまえは馬鹿力なんだから、すこし手加減(てかげん)しろよ。背骨が折れる」
はやされた女生徒がじっとクニを見つめていた。低い声でいう。
「わたしは曽我清子(そがきよこ)。今度、格闘術の訓練で会おう。かわいがってあげるよ」
サイコがいじわるにいった。
「キヨコは75キロ超級の女子ジュニア柔道チャンピオンだから。日乃元じゃなくて、世界のね。クニはちょっと女子の怖さについて勉強させてもらったほうがいいよ」
クニが強がりをいった。
「寝技なら大歓迎。いくら強くても、女子になんて、かんたんに負けるか」
腕組みをしてキヨコがいった。細めた目の光が強烈だ。
「わたし、送り襟締め得意なんだよね。男でも女でも意識を失うのは一瞬だよ。冗談をいう余裕もないからね」
視線の圧力に負けて、クニがいった。
「戦略的撤退をすることにした。キヨコちゃん、柔道場ではおてやわらかにな」
日傘のしたは笑いに包まれた。侵略と占領のための進駐軍の養成高校にも、こんなふうに心からくつろげる時間はある。タツオは久々に肩から力が抜けていくのを感じていた。
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