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殿は内輪だけの祝言の支度をし始めた。
自分も火に油を注いだ張本人であるので申し訳なく、征鷹様に謝罪に行く。
「征鷹様、申し訳ございません。私のせいで・・・その・・・殿が奇異なお考えをされて・・・」
「まったくだ!椿の奴、何考えてんだよ!俺は白無垢なぞ着ないぞ」
「はぁ・・・ごもっともで。でも祝言の支度は着々と進んでいるようで・・・」
「妹夫婦も招待されたそうだ・・・あの馬鹿野郎が」
悪態を突く征鷹を見ていたらふと殿の言った事がよみがえる。
『奴の躰、私しか受け入れんぞ』
思い出してカッとして我を忘れた。気が付いたら前にいた征鷹を組み伏せている。
「疾風・・・?」
「征鷹様・・・私は・・・」
「それ以上言うな・・・疾風。お前の気持は知っているが・・・答えられない」
「殿を・・・好いておいでなのですか?あのような奇異な行動をされても?」
「あぁ・・・もう椿の面倒をみるのは俺だと思っている」
「なぜですか・・・こんなに私が好いているのに・・・」
涙が抑えられず征鷹の頬に落ちる。
「すまぬ・・・許せ、疾風」
「離れられるとおっしゃっていたではありませんか」
「・・・・虚勢だ・・・離れられぬ。俺の血肉の一滴まであの馬鹿椿のモノだ」
そのまま部屋をを飛び出し、走って屋敷を出た。もうどこをどう走ったかもわからない。周りを見ると寺社の境内に来てひとしきり泣いた。
殿の言っていた通り・・・征鷹様は殿の事を想うておられる。
自分の入り込むすきは一分もない位、征鷹様の心には殿で一杯だった。
心の整理がつくまで街中を歩き回る。
疲れ果てて帰って来た頃はもう夜半過ぎていた。
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