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あの維新の混沌とした時代でも見事に世渡りしていく様を真近で見て、尊敬でも同情でもない・・・愛おしいと思う気持ちを止めることができなかった。
征鷹さまは殿さまの想い人・・・諦めなくてはならない・・・しかし自分のモノにしたいという不埒な想いがまた頭を擡げる。
「疾風、何を考えておる」
「兄者・・・兄者は何も感じないのですか?」
お互いの顔を見やって沈黙が続く。兄者もまた・・・報われぬ想いを秘めて勤めに励んでいるのだ。
それを知ったのは、初めて殿さまが征鷹さまをお召になった夜のことだ。
襖の脇に控えながら唇をかみ、お二人の情事を聴かされる兄者の姿は尋常ではなかった。
兄者は殿様のことを・・・・決して口に出してはならぬことだ。
御庭番として忍びとして主をお守りすることは仕事であり、情を持ち込んではならぬ。それが我ら忍びの鉄則であり、さもあれば主を裏切り、有利な方につき働くこともまた忍びの常套であった。
我々は忍びとしてはもうお役にはたてない、禁を犯していたのだ。
「そのような事は考えてはならぬ。忍びでなくなったにせよ、あの方々が主であることは変わりないのだ。心して仕えよ」
「そんなことはわかっておりまする。ただ・・・この気持ちはお伝えしないとしても、想う気持ちは止められませぬ」
「疾風・・・」
「兄者もそうでございましょう?兄者も・・・・殿の・・・」
「云うな!疾風」
後ろを向いた兄者の背中は小刻みに震えていた。
同じ思いをされているのだ。なぜか後ろから兄者を抱き締めていた。
諦められぬ想いが共鳴した瞬間だった。
同じように影として仕え、主に恋心を寄せようなど・・・・死を持って購わなければならぬ罪。
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