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兄者は一緒に里で修行していた時から、私の面倒をよく見てくれていた。
血は繋がっていないにせよ、兄と弟としてつらい修行に耐えてこれたのも兄者とともにいたからだ。
もともと最下層の人間だ。
封建制度の中で農民の不満を抑えるための、怒りをぶつけるための最下層の身分。
『人に非ず』
父も母も落ち穂を拾い、野草を食べて飢えをしのいだ・・・口減らしの為に里に売られたのだ。兄者の出自はわからない。いわずもがな同じようなものだろう。
今は人として生き、大名であられた殿様や武家の出自・士族の征鷹さまに十分な暮らしを与えていただき、ともに笑い、ともに働き・・・すぎたることなのだと頭では分かっている。
それでも身分をわきまえぬ恋心を我々は抱えて苦しんでいた。
抱き締めた兄者は拳固一つ分ほど背丈が高く、なのにすらりとしている。
鍛えているものの筋肉質でごつごつした自分とは大違いだった。
「兄者・・・戻りましょう」
「そうだな・・・・」
北の渡殿に向かうと奥の方から嬌声が聞こえる・・・征鷹さまの・・・お声だ。
あの美しい殿が紅い獣となられて征鷹さまを喰ろうておられる。
私の目は虚ろにさまよい、どこをどう歩いたかもわからず寝所に倒れ込んだ。
その夜、夢を見た。私の腕の中にお方がおられる。
殿様の様に征鷹さまの躰に唇を這わせ、愛撫に震えるその方が私の愛撫を求める。
「ん///・・・はやて・・・」
あの方が私の名を呼ぶ。なんて幸せなのだろう。
月明かりに躯が白く浮かび反り返る・・・布団をギュッと掴んで口にくわえた。声を気にしているのか・・・殿への裏切りだものな・・・月明かりにぼんやりしか見えない愛おしい人に自分の想いを言ってしまいたい。
「征鷹さま・・・お慕いしています」
「んン・・・」
「・・・・疾風・・・」
聞き覚えのある声・・・・月明かりでよく見えない。
「だれ?」
「そのまま抱いてくれ・・・疾風」
その声でハッとした。兄者・・・もう自分も止められない状態だった。兄だと知り狼狽したが兄の懇願する声が自分を突き動かした。
「お願いだ・・疾風っ!」
兄の声が切なく響く。
「との・・・との・・・」
兄者の深い悲しみと快楽が入り混じった切ない声だった。
そのまま兄とただならぬ関係を持ってしまう。
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