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行燈に火を入れてお湯を持ってくる。兄者は火照った躯を清めていく。
「兄者、申し訳ありません。寝ぼけていて・・・酷い事を・・・」
「今夜の事、他言するな」
「兄者はやはり殿さまの事を・・・」
「言うな、疾風。勘弁してくれ」
「疾風・・・時々私を抱いてはくれぬか。どうしようもない兄だと嗤われるな」
「兄者!」
「気持ちが溢れてしまいそうになる。口から想いが溢れてしまいそうになるのだ。過ぎた事と分かっているのに・・・お前なら分かってくれよう」
「兄者・・・・」
「気持ち悪い兄だろう?笑ってくれ」
「笑えませぬ。私は若輩ゆえに征鷹さまに想いを云ってしまった事がありました。それに比べ兄者は耐えておいでだ。気持ちは痛いほどわかりまする」
「疾風も辛いのう」
「兄者も・・・」
兄者は肩にもたれかかり月を眺めた。
いつもは厳しい顔つきをしているが今日は穏やかで儚げで・・・よくよく見ると美しい顔をしていた。
「殿さまのように妖艶でいらっしゃるな・・・兄者は」
「妙な事を云う・・・殿さまこそ天におわす方のようだ・・・」
月を見ながらうっとりとした眼が濡れている。
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