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それから兄者は時々私の部屋を訪れる。
お互いの傷をなめ合うだけの切ない関係だ。兄者は殿さまを想うておいでだ。昼間はそんなことは露も見せずによく働いた。
クタクタなはずなのに・・・疲れた躯を引きずって私の元にやってくる。
「兄者、この頃、おやすみできてない様子。お身体も昼間のお仕事でくたくたでございましょ?休まれなさいませ」
兄は急に必死な顔をした。今まで見たことのないお顔だった。
「疾風、兄が気持ち悪いか?だから拒むのか?」
「そのようなことではございませぬ。ただ、男身でこのような事をしていれば・・・兄者のお身体が心配なのです」
「兄の為と思うならお願いだ・・・頼む・・・私を・・・・」
「もうおっしゃいますな。わかりました」
「済まぬ・・・済まぬ・・・」
兄者は小さな声で何回も私の膝に頭を擦りつけて泣いた。なんて深い思いなのだろう。
心の中がチクリと痛む。兄者がこのようにお悩みなのに殿ときたら征鷹様にべたべたとお触れになるし、毎晩のようにお抱きになる。
征鷹様も大丈夫だろうか・・・。
兄はそのまま倒れ込んで何もせずに寝入ってしまった。
そのまま布団をかけ、一番奥の部屋・・・殿の寝所へ向かう。
兄はこの襖を隔てて控え毎晩征鷹様の嬌声をお聞きになっていたのか。
不憫な・・・あまりに御無体をなさる。
奥の部屋に進むたび声が漏れる。今日も征鷹さまがおいでだが様子が違う様子。
「だから貴方って人はいくら言ったらわかるんですか。このような仕入れを勝手に決められては困るのです」
「あー、うるさいな。このネギ作りのオヤジが金が無くて娘を売ると申すから、ネギを買うてやると言ったまでだ」
「こんな法外な値で・・・これからもか買ってやるなどと簡単に約束をおかわしになって」
「文書が無いから大丈夫だろ?少しはこのオヤジのネギも買ってやればよかろう?」
「それでは店の経営が成り立ちませぬ。ぎりぎりの値で商売しているのです。だからこそ庶民にも食える牛鍋が出せるのでございますよ」
襖の向こうではお二人が言い争いをしていた。
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