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ふと会話が止まると、殿は
「壱風か?夫婦げんか中だ。下がっておれ」
「兄ではありませぬ」
「ああ、疾風か。何用か?」
「申し訳ございません。お話合いの最中に」
「ああ、今怒られておった。もう話は終いだ。入れ」
「あの・・・失礼してもよろしいのでしょうか」
「おう、入れ。遠慮はいらぬ」
「あんたは誤魔化したつもりなんだろうけど、このカタはきっちりつけますから!お覚悟を・・・」
「あぁ、分った。うるさい女子だの」
「女子ではございませんっ!」
征鷹は怒って部屋を出ていった。
「どうした?こんな夜更けに」
「殿さま・・・僭越ながら・・・兄を・・・壱風を解放願えませんか?その代わり殿の御身はこの疾風が力不足ではございますがお守り申し上げまする。兄の任をお解き下さいませ」
「なにをいまさら、私は一介の浪人ぞ。お前たちの任はもう解いておる」
「しかし・・・」
「壱風になにかあったか?」
「それは・・・」
「言うな!疾風っ!」
兄者が飛び込んできた。
「何か隠し事か?壱風・・・」
殿が兄者を見据えると兄はカタカタと震えた。
「そなたたち、毎夜、何をしておる?」
殿の口元が緩んで口角がうっすらとあがる。
「それは・・・」
「そなたら本当の兄弟ではなかったの。祝言なぞ催してみようか」
「殿・・・誤解でございます」
それを兄は制止した。
「はい、お受けいたします。ありがたき幸せ」
「うむ、いい夫婦(めおと)になろうぞ」
「そうだ、一緒に私と征鷹も挙げようか、そういえばそのような事しておらなんだ・・・で?どっちが綿帽子をかぶるのじゃ?」
殿はにこにこして勝手に話を進めている。兄者はただ下を向いて真っ赤な顔をしている。
「殿、そのような話でなく・・・」
「疾風、お前も見たかろう?征鷹の花嫁姿・・・さぞ美しかろうて」
「いや・・・殿さまの方がどちらかというとお似合いかと・・・」
呆れてとんでもない失言をしてしまった。
「あっ・・・今のはお忘れ下さい。失礼つか奉りました」
「そうか・・・なら私が着ようかの」
どうしてこうなるんだ?殿の能天気にはほとほと困りものだ。
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