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毎日が憂鬱になっているそんなある日、帰ろうと思ったら教室にジャージを置いてきてしまって、玄関まで来た道を慌てて戻った。
瑞希は家の用事で先に帰るって言うし、一人で帰るのは楽しくないけど・・・今は少し楽かもしれない。
廊下には部活動の生徒が懸命に走っていて、私はその人たちの邪魔にならないように端っこに避けながら廊下を歩く。
・・・富樫くん・・・今は何してるんだろう?
・・・・って、違う!違う!そんなこと考えちゃダメ!
思い出しちゃダメだ!
懸命に自分の頭を横に振り、頭の中に浮かぶ人物のことを振り切ろうとする。
駄目駄目、と頭で制して、ようやく着いた教室のドアをガラリと開けた。
開けた瞬間、目に入ったのは沢山の机と・・・人が二人。
一人は携帯をいじって、机に寄り掛かっていた。もう一人は机に座って笑っている。
私の存在に気付いたのか、振り向いた相手は間違いなく富樫くんで。
一瞬、声が出せなくなった。
「あれー、日向さん。忘れ物?」
私の反応とは裏腹に、富樫くんは普通の顔で話しかけてくる。
「う、うん」
恐る恐る言葉を出すけど、どうしても富樫くんと話している相手が気になって堪らない。
その人は私に一瞬視線を向けると、すぐに何もなかったかのように富樫くんに話しかけた。
「ってかさー、陽太のクラスって放課後、あんまり人いないよねー」
携帯をカチカチいじりながら細っこいギャル系の女の子が笑う。
「そうかー?でも、他のクラスに比べたら少ないよなー」
何ともどうでもいい会話が繰り広げられている。
この2人の会話を長々と聞く気はない私は急いで自分の机に向かい、机の横にかけていたジャージのカバンを持った。
カバンを肩に掛け、教室を出ようとすると「日向さん」と呼び掛けられ、ゆっくり後ろを振り向く。
本当は振り向きたくもなかったけど、ここで振り向かないと逆におかしい。
後ろを見ると、手を振って「さよなら」と笑っている富樫くん。
「さ、さようなら」
おずおずと片手を上げて、それに私も応対する。
にこにこと笑っている富樫くんに反して、一緒に居た違うクラスの女の子は私を無表情で見ているだけだった。
その視線にも耐えきれず、もう手を振るのはいいだろうと慌てて教室を後にした。
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