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「ふふ、狙いは迅速かつ正確に。『影の使者』に居て学んだことだよ。」
「!!」
ティナはその時、ぞぞっと背に何か冷たいものが走ったのを感じた。
そして、悟った。
――どこが善良だ、何が優しすぎる、だ。
狡猾さ、強かさ、外堀を埋めるスピード、どれをとっても天下一品。
やはりこの人は正真正銘『影の使者』の一員だ。
いや、むしろ十年に一度くらいの逸材だ、と。
「この詐欺師…」
「おや、褒め言葉かな?」
「…なんでもないですよ。」
ちらりと彼を見ると、一部の隙もない完璧な笑顔を作っていた。
しかしその瞳の奥に何やら黒いものが渦巻いているのを『影の使者』一員たるティナは見逃さない。
断る、という選択肢はすでに存在していないも等しかった。
俗に言うYES or はい状況である。
ああ、もう笑うしかない。
「……どうぞ、お手柔らかに頼みます。」
「もちろん。」
嬉しそうに手の甲に唇をあてたフロリアンを見、ティナははあ、と諦めたようにため息をひとつついたのだった。
――数ヶ月後、マルグリット王妃の兄であるウェリントン新侯爵が妻を迎えたという噂が王都中に広がったという。
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