0人が本棚に入れています
本棚に追加
「……場所は、東北の――」
そうして、咎菜と灰道は教えられた場所に来ていた。
東北地方の某県某市の廃屋。
震災の影響が大きい東北だが、山に囲まれたためそれほど酷いことにはなっていなかった。
(破損は元からか……)
元々は一体何をしていたのかは知らないが、多分、研究施設か何かだろう。埃にまみれた床の所々にビーカーや試験管の破片が落ちている。
「何でまたこんな廃虚にいるんだあの人は……」
口元を袖で押さえながら咎菜が言う。
まだ午後の4時なのに、中は夜中のように暗かった。咎菜は目を細めて廊下の先を見つめる。面倒なことを……と、若干の苛立ちから歯ぎしりをする。
そして、呟いた。
「あの女狐が……」
一方その頃、件の女狐は――
「二手に分かれたのかな?」
ケタケタと愉快そうに笑っていた。
時代錯誤も甚だしい高価な着物に身を包み、片手には深紅の唐笠。大和撫子を連想させる格好だが、金髪のストレートヘアーがそれを台無しにしていた。それでも可愛らしい顔立ちなので、クラスにいれば確実にマドンナの立ち位置なのだろうが。
金髪の頭からは狐の耳が生え、何者かの気配を察知しているのか、時々ピクピク動く。
最初のコメントを投稿しよう!