とある母の日の出来事《エピソード》

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 そして、不意に見た自分の表情(かお)に少しの驚きが芽生えた。 「……私の元の表情(かお)って、こんなだったのね……」  頬は(やつ)れ、目尻は重力に従うように垂れ、寝起きだからか目の充血も酷く、化粧でもごまかしが効くか不安な隈。唇も髪も、潤っているなんてお世辞にも言えないものだ。  だが、そんな外見的要素よりも、もっと目に付く、気にするべきものがあった。  ――目に、生気がない。  少しばかり大袈裟な表現になってしまったかも知れないが、それでも、元気や溌剌さと言った印象はまず受け取れない、“疲れきった目”。  そして思う。いつから私はこんな表情が「普通」になってしまったのだろう……?  これでも昔は、それなりに可愛い部類に入る女の子であった自覚はあった。男の人からの告白や突然のプロポーズなんかもよくされたものだ。  ご近所の評判や評価などもそれなりには良かったと思う。ある美人芸能人にも似ているなんていう話を何度も聞いたし、笑顔で否定しながらやっぱりちょっとした優越に浸ってた。 「なんて……栄光なる過去を振り返る時点で、私も歳かな?」  ちょっとした嘲りとともに一笑。  そう言えばよく、私の母も若い頃はこうだったみたいな話をよく聞かされたな、と思い出す。結局は人間、若く輝いていた時代にいつまでも縋っていたい生き物なんだろう。  そう結論付け、顔を洗い、歯を磨き、疲労は残るが強制的に覚醒させる。  少しはマシになったかなと思って鏡を見たが、あまり変わっていなくてまた嘲笑。  私はやっぱり、これが「普通」なんだ、と思い知らされた。いつからかなんてわからないがこれが「今」の「普通」なんだ。
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