番外編 ~圭悟の呟き②~

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ーーーー 金曜日の夜、23時。 今日も現場から帰り、見積り書を作成したり、事務仕事を片付けてから、最後に室内のスイッチを落とす。 右手の指に車のキーを引っ掛けて、左手には空のお弁当箱。 今日も、実に美味かった。 俺の好きな生姜焼きが入っていたこともあり、僅か数分で俺の胃袋に入った。絶妙な感じで歯ごたえを残した玉ねぎの上には、小麦粉をまぶして焼いた生姜焼きが、白米が見えない位に敷き詰められていて。 小麦粉をまぶすことで、ジューシーに仕上がり、肉汁が浮いてこないから、冷めても美味しいとか。それが七瀬のこだわり。 口では散々、言ってきたんだ。 共働きだったし、「弁当は無理して作らなくてイイから」と。 ましてや、妊娠が分かってからは悪阻もひどかったし、今も産休に突入して、ゆっくり出来る唯一の時間なのだから、朝早く起きなくてイイと言っているのに。 「圭悟くん、はい!お弁当!」 なんて、玄関を出る前に満面の笑みで保冷バックに入った弁当箱を渡されると、 思わず、ニタリ…… ついさっき、美味い朝飯を食ったばかりなのに、もう弁当箱を開けるのが楽しみになるんだからな。 どの口が言うんだ。 「無理して作らなくてイイ」なんて。 俺の胃袋は、どんなに高い幕の内弁当も「美味い」と感じないほどなのにな。
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