番外編 ~圭悟の呟き②~

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七瀬の料理上手は、お母さん直伝らしい。 …と、言っても…もうこの世にはいない。瀬名家にある遺影の中で、いつも優しく微笑むお母さんも、相当の腕前だったとか。 余命宣告をされてから、夜な夜なペンを走らせ、残される七瀬と、妹の麻由里ちゃんの為に、‘‘ 母親として出来ること ” を書き記し、一冊のノートに纏めてあったらしいんだ。 掃除・洗濯の豆知識。アイロンのかけ方。そして、料理はもちろん。切り方から、出汁の取り方。好きな人が出来た時に胃袋を掴めるレシピまで。 その中の一つが、さっきの生姜焼き… お母さんの思惑通り、見事に胃袋を掴まれた男がここにいますよ。 母として…娘達に伝えたいこと、教えておきたいこと、一体どんな風な思いで書いたのであろうか。 初めてそのノートを七瀬から見せて貰った時に、ページの所々に、水分が滲んでしまったことで文字が判別出来ない箇所がたくさんあった。 それは… お母さんの涙なのか… 七瀬の涙なのか… 麻由里ちゃんの涙なのか… そのことを思うと…胸が痛くなるし、そんな風にお母さんに愛された七瀬と麻由里ちゃんの笑顔を、 親父さん同様に、俺が守ってやりたいと思うんだ。
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