番外編 ~圭悟の呟き②~

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事務所から、自宅マンションまでは車で5分もない距離。 新居を選ぶ際、俺はもう少し遠くに位置したマンションが気に入ったんだ。家賃はそこそこしたが、築年数が浅くて、いわゆるデザイナーズマンションってやつ。 防犯上の設備も完璧で、帰りが遅くなることが多かった俺には安心だったんだ。 不動産屋で「ここに決めよう」と言った俺に、七瀬はこう言った。 「もったいないもん」 たった一言、そう言った。 そしてニコリと笑ってから、目の前にいた担当者に幾つか条件を出した。 相沢電気からとにかく近いこと。これは絶対に譲れないと。 設備は最低限付いていれば、贅沢は言わない。 家賃は出来るだけ抑える。 たった一つ希望が言えたら、 「南向きだったら、嬉しいです」 そう言って、担当者を大いに困らせた。 それから長い時間を経て、今のマンションを提示されたのだった。 確かに事務所からは近いし、七瀬の希望通り南向き。だけど、4階建ての最上階でエレベーターなし。オートロックもなかった。 担当者が「これが精一杯です」と言って、頼むからこれで決めてくれと言わんばかりに、七瀬に視線で訴える。 画面付きインターフォンが付いているから、オートロックは100歩譲るにしても、エレベーターがないなんて、これから子どもも産まれてくるのに。
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