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だけど 無い筈を、有る筈にしろ と、先輩はよく皆に言った 抜けない壁は無いんだぜ? どうやって、抜くんだろう ドリブルを始めて、直ぐにカットされる 「真剣にやれょな」 って、真剣なんですけど! 凄くショックを受けました オフェンスは尽く(ことごとく)カットを喰らう 「!っ!」 「……甘いな」 早い! 先輩の切り返しはメチャメチャ早い! 「!!!」 「そんなんで倒れてんなよ、後輩」 本当、ちょっとスクリーン張られたくらいで何、ビビってんだか! 「くっ」 私は、果敢に攻めてゆくも 先輩を抜く事は一度も無かった 肩が、上下するほど 息があがる 逆に先輩は余裕の笑みを浮かべて 私を見下ろしていた 「せ、先輩、も、……無理で、す」 「根性ねーなぁー」 私はとうとう地べたに這いつくばった ハァハァと大きく息をつき ジャリ、とコートの砂を握る 「お前の負けだな、後輩」 柏木先輩の声が私の頭に響く 「く、くやしっ…………!」 「さて、どうしようか」 へ? 私は思わず顔をあげる 先輩の呼吸はひとつも乱れる事は無かった あ、と小さな声をあげた柏木先輩 ポケットから見覚えの有るモノを取り出した 「これ、お前んだろ?」 そう言いながらニヤリと笑う 「……あっ!」 わ、忘れてた 完全に忘れてた! でも、これを、先輩が持ってるっていう事は、やっぱり、ゆう、っていうのは…… 「か、柏木先輩……だったんですか?」 目の前に振り子のように出された 私のスマホケースが、左右にゆっくりと揺れる ニコリと笑った柏木先輩 「お前は、覗きが趣味なの? 朝も、そんでガッコでも」 ば、ば、バ、 バレてる 朝の日課活動も 今日のあの出来事も どっちもバレてる!? 「ち、ちがっ……」 スマホを取る為に伸ばした右手を 何故か取られて 「せ、せんぱっ」 「なぁ」 しゃがみこんだ先輩が握った手首にギュと力をこめる 「ひゃっ…」 「全部見てたの?」 「み、見てません!ってゆーか、見えません!」 「じゃあ、聞いてたの?」 「っ、べ、別に聞きた、かった訳じゃ…」 柏木先輩の顔が余りにも近くて 「してやろーか」 「へ?」 「お前にも」 汗だくの私に、違う種類の汗が流れるのが分かった
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