19/24
8806人が本棚に入れています
本棚に追加
/512ページ
手首に掛かった先輩の手をほどくのに本当に必死で おまけに、キスなんかされたくなくて バスケをしない、いや、してるんだろうけど バスケ部に居ない先輩なんかに用はなくて でも、先輩のバスケは好きで…… って、頭の中はもうグチャグチャで とにかく、逃げようという一心で その時の先輩の顔なんて どんな目をしてたかなんて、知らなかった そして 突然、大笑いし出した先輩 「へっ」 先輩がしゃくり笑う度に 私も上下に揺れる あ、あの、手を、手首を離して下さい 「あははははははははははっ」 「せ、せんぱい、」 笑い続ける先輩に告げる 「お願いだからっ、離して」 「あ、ワリィワリィ」 チラリと横目で私をみて パッとほどかれた拘束 再び、笑う、笑う、笑い続ける先輩 これでもか、というくらいに 笑い尽くして 「……気が済みましたか」 そう言った私に 「済まねぇよ」 と、急に真顔に戻った先輩 ニュッと伸びてきた腕に ひっ、と小さな悲鳴を上げたけど 次の瞬間私は地面に二本足で立っていた あ、立たせてくれたんだ…… 見上げた先輩は大きくて つい、また口走ったセリフは 「先輩、身長何センチですか」 「教えてほしい?」 「……無償で教えて、下さい」 「ぷっ」 「どうして笑うんですか」 「186」 「デカっ!」 数字を知ると、余計にデカさを実感して 「お前は?」 「……私の名前はお前じゃない、です」 「……」 本当に、今日という日は一体どういう日なんだろう わたし、オカシイ 少しの沈黙の後 「呼んでほしい?」 余裕が、たっぷり含まれたその笑いが物凄く綺麗に見えて 不覚、安城エリー、全身に鳥肌を覚える その時、バン、という音と共に 一斉にコートライトが消える 「わっ」 私だけの叫び 「あぁ、9時で消灯なんだ、ここ」 そうして、水銀灯が一つポツリ灯り始めた
/512ページ

最初のコメントを投稿しよう!