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賢兄の生クリームがいっぱいあしらわれた フルーツタルトにも凄く惹かれて 「賢兄、ちょ、ちょっとちょーだい」 「……こんな時間に食うのがどーとか 言ってなかった?」 「いや、もう、構わん」 ワハハと笑う賢兄を尻目に 生クリームから、クッキー地部分までを しっかりと掬い取り口に運ぶ あぁ、甘さ控えめなクリームと 甘い甘いフルーツの絡みが堪らない 鼻から抜ける、クッキー地のちょっと 濃いバニラの香りも……た、たまらん 美味しさに悶絶している私に 不意に伸びてきた手 ……こんなの、なんていうの? お約束、常套、常道 とにかく、有りがちな ドキュン と、ときめく一瞬じゃん! 「クリーム」 あたしの唇真ん中から 右側へと、賢兄の親指が滑っていく 「ついてる」 確かにその親指に ちょこんとついたクリームが 何の躊躇いもなしに主の口へ運ばれて 姿を消した 「やっぱここのは甘くなくていーな」 なんだこれ 隣は酔っ払いの親父二人 凄くムードなんか無いのに 脈が不整に刻まれているような ドキマギとする心臓の音 その拍動が容赦なく膨大な血液を 集中して送り込んだその先は 「エリー、顔、真っ赤」 スタイリッシュな黒渕の眼鏡 その奥で微笑んだ目が 人生で二度目に出会った賢兄だった
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