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ここは聖城学園中学校。
世田谷の一等地にある幼稚園から大学まである私立の一貫校だ。
生徒会の役員を一年からしてきた。
今日は、三年生引退と二年生への引き継ぎがあった。
急に先輩に指名され、あろうことか生徒会長になってしまった。
統率力などなく、どちらかと言えば、いつも誰かの影で働くのを好んでいたのに。
自分が会長なんて青天の霹靂(へきれき)だ。
「おい!ゆき…どうした?暗い顔して」
「こたクン」
つい泣きそうになる。
いつもサボってばかりいる雷文 虎太郎(らいもん こたろう)は幼馴染み。
屋上に来れば必ず会えると思った。
虎太郎は、聖城学園の中で異質の存在だった。
オウチの家業はヤクザさん、こたクンは次期組長になるらしい。
でも見た目は怖くない。
いつも制服をグズグズに着崩しても、先生の呼び出しがない。それは、オウチの家業のせいかもしれない。
こたクンは見かけチャラ男で、渋谷にでもたむろってそうな感じ。金髪で、長い髪を後ろで束ねている。
こたクンにとって、どんな存在なのかは分からないけど、いつも僕には優しい。
他の人にすごむことがあっても、僕は一度も大声でどなられたりした事はない。
今にも泣きそうな顔で虎太郎に事の顛末を話した。
「僕、生徒会長にさせられちゃった」
「いいじゃん、雪兎ならできるよ。俺のこともお目こぼしお願いしますよ」
「こたクン、他人の事だと思って。自分に得になるから言ってるんでしょ?」
「まぁ、それもあるけど。ゆきならいい学校になるよ」
頭をくしゃくしゃっと撫でる。こういうこたクン好きかも・・・。
こたクンがこの学校に入ると聞いて、親に無理を云って入学させてもらった。
理由はもちろん、こたクンと離れたくなかったから。
こたクンとの付き合いはもう幼稚園の頃からだ。
粗暴で、幼稚園をやめさせられそうになったこたクン。
お母さんたちのお話し合いの席で、こたクンのママは独り矢面に立っていたが、全然動じなかった。さすが姐さん・・・。
「虎太郎は、か弱い動物が大好きなんですよ。ウサギでも持たせて置いて下さい」
なんて、啖呵を切って帰っていったらしい。
当時、こたクンが異常に僕を可愛がっていて・・・結局、僕がその愛玩動物に選ばれたようだ。
こたクンも、僕といる時は優しくて、乱暴はしなかった。
こたクンにとって僕は何なんだろう。
動物?ウサギみたいなモノ?
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