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慣れた。
「ア゛アアァァーー……」
「ボタン。レバー食べる? ていうか食事、要るの?」
「ア゛アアァァーー……」
「あ、食べた。って噛んでるだけだし。あぁ、あぁもうボタボタ垂らして……」
「ア゛アアァァーー……」
この死体、驚くほど無害な上に人懐っこかった。
料理をしていると足元へすり寄って来る。
テレビを見ていると膝の上に乗っかって来る。
やはり元の飼い主に相当、可愛がられていたらしく『ボタン』と呼ぶと反応する。
見慣れてみると、意外と可愛い。グロカワ系とでも言うべきか。
どうやら結局、作り話は作り話だったようだ。
ただし、幾つか難点もある。
まず、膝に乗せてもぬくぬくしないし、寧ろ冷たい。
鳴き声がだいぶ死んでる。
動く時にコリコリうるさい。
ニオイがキツイ。
ニオイだけは我慢できずに、バスルームでとことんシャンプーしてみたが効果無し。
そこで女子力を発揮して、でろでろ飛び出た内臓を全部引きずり出してから裁縫道具で傷口を閉じてみたところ、これが大正解。
ニオイの元凶たる内臓は生ごみに捨てた。
ボタンが食べ残したレバーを処理して、自身の夕食も済ませた頃。
ピリピリと、携帯電話の着信音が鳴った。
はっと昨日の事を思い出して、ずっしりと胃が石を飲んだようになる。
だが画面を見ると、着信は本多数馬からだった。
ふんわりと、心の紐が緩むのを感じた。
「あ、もしもし、すぅちゃん」
『悪い悪いハネちゃん、今起きたんよ。電話したやろ?』
「あ、うん。ごめんね、バイト中に……」
『いやぁこっちこそ。僕のバイト地下鉄の測量やけん、勤務中は電話繋がらんのよ。で、どないしたん?』
「あ、えっとね」
あぁ、そっか。
朱華は気付いてしまった。
これは、悟と上手く行かないのも当然である。
「……すぅちゃん、どうせクリスマス暇でしょ?」
『どうせって何やねん』
「東北行こ? 二人で!」
『は!? 何言うとん!?』
「私の傷心旅行に付き合って?」
『傷心ておま、マジでか!?』
「大マジ、ですっ!! 何泊しよっか?」
『泊まるん!? な、なぁ、これ僕、期待してええんか?』
「にししし! どうかにゃー」
「ア゛アアアアァァーー……」
『何や、今の死んだ猫の鳴き声みたいの?』
「後で紹介するー。この子の飼い主探しも兼ねるから、気長に付き合ってね」
ボタン
fin.
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