第1話

3/13
前へ
/13ページ
次へ
 俺の土曜の楽しみ……一週間の楽しみの時間を返してくれ。原因を探せば探すほど、輝きは目に入るし、イライラも過熱してくる。まるで探し物をしているようだ。人生で一番無駄な時間と言っても過言じゃないだろう、物を探す時間。心当たりを必死に当たれば当たるほど、見つからなかったときの反動で腹が立つ。その何とも言いようのないやるせなさによって、ああクソこの野郎、などと会社では絶対に言ってはならないようなことを叫びまくって、その後すぐに見つかってしまった時のやるせなさと言ったら……。そう、今のこの光の原因探しもそんな感じなのだ。むしろ、探し物よりもよっぽどたちが悪いようにすら思えてくる。なんで、腹が立つほどに輝きを増すんだよ! ほんっとにアッタマに来るわ! ああ、もう。また強くなった。心が荒立つのをひしひしと感じる。  ああ、俺は今、こんな時間に一体何をしているんだろう……。  一度、顔でも洗おう。うん。そうしよう。それが一番だ。うん。    それはもはや悲鳴にはならなかった。悲鳴ですらなかった。ただただ眩しくなっただけだった。二倍だった。そう、二倍だった。ああ、二倍だったさ。相乗効果で三倍でもいいなじゃないかとすら感じる。  洗面所に行った俺は全力で輝いていた。  そう。  明かりでもない。カーテンが開いていたわけでもない。そもそも朝ですらない。懐中電灯とかいう、普通なら考えられないようなことまでも検証してもそうではないわけだ。  ああ、鏡に映った俺も煌めく輝きを放つ。もはや、神々しい。    輝いているのは、そう、俺だ。  俺、四十にして、ついに神となる。  ずいぶんと間抜け面な神もいたものだ。まあ、当然だが。      夢であれ。夢であれ。夢であれ。  はい、夢じゃありませんでした。  月曜の朝、出勤という名の地獄の幕開け。寝不足のためだけではない。  寒空に俺の空笑いが響く。今まで築いてきたご近所様との良好な関係は瓦解した。今回の場合においては、光の速さで崩れ去ったさ。近所の無害なオジサンだったはずだよな? そうだよな?  本日、俺は一躍変態となりました。  勤続十八年。スーツにネクタイをビシッと決めた俺。そして黒髪。先週の金曜までだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加