第1話

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 勤続十八年。スーツにネクタイをビシッと決めた俺。かつ、サングラスにマスクを装着。また、金髪、のように見えるただの輝く黒髪。そして、着慣れたスーツからあふれ出んばかりの光。  もう一度、虚ろな声で笑った。この時点で十分変態なのだが、そんなことはもはや差し障りないだろう。ちっぽけすぎる。ちっさい。ちっさい。  世界中の皆さん!  今日、世界にお天道様が二つになりましたよー!    通勤電車でどうだったかなど、言う必要も思い出す必要すらない。悪夢というものは起きているからこそ見るものだ。電車の外から見ればさぞかし奇妙であったことだろう。まるでかぐや姫の竹だっただろう。一両全体がそれこそ外部に光が漏れ出るほどに輝いていた。恥ずかしく思えば思うほど輝きは無尽蔵に増していき手に負えなくなった。吊り革を掴む手はもちろんのこと、全身が煌々としているのだ。後ろの方で外国人のサラリーマンがジーザスと呟くのもわかる。そりゃ、俺だって俺じゃなかったら目を見張っていただろう。俺だったから無理だっただけだ。目を見張ろうとすると、そこから光線が出てしまうのだから仕方あるまい。光線と言ってもただ眩しいだけで、ファンタジーのような何かを壊す力など持っていないが。いや、十分すぎるほどの破壊力を持っていたか。  だからこそ、警察の方にお話を伺われまいと必死に俺は逃げた。十五年通いなれた通勤路だ。裏道だってよく知っている。それこそ、地元警察の人にだって負けないだろう。プレゼンが終わると毎回気分転換に散歩を繰り返していたんだ。  しかし、今日はそうもいかなかった。それも当然だった。俺は、とにかく目立つ。静かに息をひそめていてもほとばしる光は抑えようもない。今の俺に追跡用のGPSなんて不要だ。天然GPSにそんなものはいらん。次は左ですとか、直進ですだとか、そういったカーナビ要素もいらん。見ればわかるだろう。    懸命に追ってくる警察や野次馬の連中からがむしゃらに逃げる俺が向かう先は我が愛すべき会社だ。すでに我が勤務人生初の遅刻というものをやらかしてしまっている。今までの信頼があるから、と理由に真実を言ってもさすがに信じてもらえなかった。まあ、言い訳としてすらもなりたつものではなかったな。体が発光してしまって人に追われている、なんて。  そこまでして、こんな状況で俺が会社に向かう理由がある。
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