第1話

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 忘れていた。盲点だった。俺にはこのプレゼンはできなかった。  その事実に俺たちチームは驚愕した。冷静に考えればそうだった。  プロジェクターから映し出されるその映像。俺たちが長い期間かけて作ったその映像資料。それは何も映らなかった。いや、正確には違う。俺が強すぎた。 「……すまない。リハーサルで俺がやったことを覚えてるか?」 「……はい」 「あとは頼んだ。俺は……ここまでだ。……本当にすまない」    いつもはプロジェクターからの光を俺が一身に浴びていた。  今日はプロジェクターが俺の光を一身に浴びていた。暗室は光に満ちてしまった。  遅すぎたかもしれない。準備の時に汗の滴をあちこちに振りまいてしまったことだろう。  俺はすべてを部下に任せて、外に出た。  そして、もはや自分で自分に引いた。  ため息も金色だ。      メールを見て俺はほっと息をついた。言わずもがな、輝いている。部下からのメールだった。プレゼンは何とかうまくいった、と。  ここは警察病院。自首した俺は特に取り調べをされることもなく警察病院に連れて来られた。まあ、通報通り、意味もなく輝いているのだ。こちらに悪意がないことは警察署での身体検査で証明された。確かに、何も持っていない状態で光るのだから。そのようなことを告げてきた検査官に煌びやかな苦笑いを返すしかなかった。  その後、この病院に送られたのは、まあ、わかる。原因の追究のためだろう。俺もそこに文句は何もない。  しかし、その検査は困難を極めた。  なにしろ、レントゲンを撮ろうとしても部屋を暗室にできなくてうまく写らないことが分かったのだ。さらにMRIを使おうとしたら前例がないので故障する可能性があるとして技術者の懸命の抵抗にあって中止になった。前例がないのは当たり前だろう。それを発見するためのMRIじゃないのか、と問いたい。  結果として実施できたのは血液検査とDNA検査だけだった。  血液はもはや予想通りと言ってもいいだろう。光った。注射器で吸い出されていく俺の血は血としての色をしていなかった。正確には赤いのだが、金色にしか見えなかった。その時の看護師の引きつった顔はおそらく俺は一生忘れることはないだろう。懸命に作り出した笑顔だったのだろう。だが、どちらかと言うともうすでに笑顔だったのではないのだろうか。必死に笑いをこらええて笑顔を作るというのも奇妙な話だ。
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