第1話

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 ここまでにおいて、俺は一つ悲しい事実に直面していた。俺は冷静にこんなことを考えていられるほどに新しい自分に慣れてしまっていた。慣れって怖い、ということを今、ひしひしと感じている。めちゃくちゃすぎることにすらも適応できるのだ。人間の適応力には甚だ感心してやまない。  よくよく見ると、医者の方も笑いをこらえていたんじゃないか。マウスを掴むその右手がピクピクと細かく動いていたのを俺は見逃さなかった。口角もだ。できることなら、俺だって大爆笑したい。そんなアホなことあるものかと笑っていたい。他愛もない世間話の一つにでもしたかった。したかった。したかったんだ!   ――当事者はそんなことできないんだ! 笑っちゃいたいが、笑ってしまったら最後なんだ! よくよく考えると、朝、家の前で笑ってしまったように思えるが、それでも笑ってはいけないんだ!  ――お前はそれで本当にいいのか? 笑ってしまった方が楽だし、楽しいんじゃないか? だからよ、笑ってしまえよ? これほど愉快なことなんてないぜ?  心の中で俺同士の激しい戦いが起こっていたからかもしれない。 「血液検査、DNA検査、ともにですが今回の検査結果は前例がないので正確なことは言えませんが、二週間ほどで出ると思います」 「俺、何ルクスくらいですかね?」  はっとなった俺は点滅していた。        人生で一番長い二週間だった。  企画提案がうまくいき、二週間の有給休暇を頂いた。形式上は。  全身が輝き、二週間の自宅軟禁命令が警察から出た。事実だ。  昨日、検査結果が明日には届くという連絡が警察から入ったため、俺は今病院に向かっている。特製の黒いコートで全身を包み込み、マフラーで首を完全防御。手先は手袋で外界から隔絶させ、顔はマスクとサングラスとニット帽で可能な限り外からシャットアウトした。俺の光を。  二週間、輝いてみてわかってきたことがある。
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