1414人が本棚に入れています
本棚に追加
『ピッタリなのは、マスターでしょ?』
いきなり、昨日菜花に言われた言葉が頭に浮かんだ。
菜花のばかっ!
昨日あんな事言うからっ!
…顔が火照ってくるのが分かる。
マスターにそのまま見つめられて、海月は2人しかいない店内がもの凄く気になり、キョロキョロと挙動不審に辺りを見回した。
そんな海月を見て、マスターはクスリと笑うと
「ねぇ、俺の下の名前、知ってる?」
漆黒の瞳を揺らめかせて、優しく聞いてきた。
海月はふるふると首を振る。
「…だよなぁ」マスターは、そう呟くと、
「…恭史〈キョウジ〉」
と、一言、言った。
「えっ…?」
「桐谷 恭史〈キリヤ キョウジ〉。
《恭史》か《恭史さん》って、呼んでよ」
ガンッ…と頭の痛みがひどくなる。
似たような言葉を、以前理紫に言われた。
低く甘い声が耳元に甦る。
『《理紫》って、呼んでよ』
マスターが理紫と重なって見えた。
次の瞬間、胸がギュウッ…と締め付けられる様に痛くなる。
最初のコメントを投稿しよう!