12.

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『ピッタリなのは、マスターでしょ?』 いきなり、昨日菜花に言われた言葉が頭に浮かんだ。 菜花のばかっ! 昨日あんな事言うからっ! …顔が火照ってくるのが分かる。 マスターにそのまま見つめられて、海月は2人しかいない店内がもの凄く気になり、キョロキョロと挙動不審に辺りを見回した。 そんな海月を見て、マスターはクスリと笑うと 「ねぇ、俺の下の名前、知ってる?」 漆黒の瞳を揺らめかせて、優しく聞いてきた。 海月はふるふると首を振る。 「…だよなぁ」マスターは、そう呟くと、 「…恭史〈キョウジ〉」 と、一言、言った。 「えっ…?」 「桐谷 恭史〈キリヤ キョウジ〉。 《恭史》か《恭史さん》って、呼んでよ」 ガンッ…と頭の痛みがひどくなる。 似たような言葉を、以前理紫に言われた。 低く甘い声が耳元に甦る。 『《理紫》って、呼んでよ』 マスターが理紫と重なって見えた。 次の瞬間、胸がギュウッ…と締め付けられる様に痛くなる。
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