四月、始まり

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私のクラスの国語の先生は最低最悪な人間だ。 柚木ブロント。 男で新任で二十三歳で独身。長身で痩せ型、顔は小さくて輝かんばかりの金髪を一括りにしている。 気さくで明るい性格で、生徒、殊に女子からはかなりの支持を獲得していて。 見た目は――不本意ながら――悪い方ではないと私も認めざるをえない。 けれど彼は、いえあの男は、周りに誰もいない時であれば、 たとえ学校内であったとしても生徒の私にせまってくる、変態ロリコン野朗なのだ。 で、このアホ、別居中の私の実兄なんですけど。 「――手っ取り早く言うとだな」  もぐ、もぐ。 「俺は早く妹と結婚したいわけ」  ぶっはぁ! 「うわ、いきなし吐くことないじゃん、吐くこと。ひどいなあ、せっかくのだし巻き卵なのに。 力作でしょこれ。この色といい味といい。だし汁って入れれば入れるほど失敗率高まるんでやんの。 でも今回大せーこーっ。食べて食べてっ」 あまりのしつこさに私は多少疲労を感じながらも渋々卵焼きを口にした。 ぱく、ぱく。確かに不味いとはいえない味。何も言わない私を見て、兄は勝手においしいものだと決め付けた。 「うわーい、うわーい。おいしいっしょ?俺朝から頑張っちゃったんだよねぇ。 ああ別にそんなことは気にしなくてもいいぞ?我が妹マイハニー。ああもうテミちゃんそんなにらまないでっ。 お兄ちゃん嬉しくて発狂しそうだよ!!」 我が妹マイハニー??文法的におかしくないですかセンセイ。 私は弁当箱のふたを閉じ、両手を合わせて目を閉じる。ごちそうさまと心の中でとなえる。 作ったのがどんなヘンタイ野郎であっても、弁当そのものに罪はないから。
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