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――新宿。
パリスは大きな紙袋を片手に抱えて、事務所の鍵をポケットから出した。
艶やかな黒髪に、整った精悍で端正な顔立ち。モデルのようなスタイルは通り過ぎる女達を振り向かせていた。
紙袋の中にはフランスパン、オレンジ、ブロッコリーと食材が詰め込まれている。
部屋の前まで来てカチャリとドアを開けて、
「樹利、ただいま。依頼主からの前金でようやく食料が調達できたよ」
と、にこやかにそう告げた瞬間、
「ああッ」
と奥の部屋から、獣のような女の声が耳に届いた。
「…………」
あんあん、と絶え間なく続く女の声にパリスは「またか」と額を押さえ、
「樹利、もうすぐ依頼主が来るんだけど!」
と声を張り上げると、その声に応戦するように女の絶叫が響き、やがて静かになった。
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