第3夜 白椿の君

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目を伏せながらそう告げた可愛に、樹利はそっと眉をひそめた。 「自分が寝込んでいる隣の部屋で、夫が別の女を夫婦の寝室に連れ込んで毎夜ヤッてるのを聞きながら死に絶えたなら、そうもなるのかもな。 …………可哀相に」 そう言って可愛の頭を優しく撫でた樹利に、 「……樹利様」 と可愛は大きく目を見開いてそう漏らし、 やがて瞳からポロポロと涙を零した。 「……この涙は、私のものではありません。私の中にいる奥様が涙を流しているんです。 樹利様、ありがとうございます」 溢れ出る涙を拭おうともせずに笑みを浮かべた可愛に、樹利は腕を伸ばして、強く抱き締めた。
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