第1夜 Crazy Moon

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「……ありがたいことに、全然戸締りはしてないんだな」 屋敷の引き戸に手を触れながらそう漏らした樹利に、 「外部の人間は入れないしね」 とパリスは頷き、ひと気がないことを確認して引き戸を開けて、屋敷内に侵入した。 それは長い通路に、 「こりゃ身の隠しようがないな」 「とりあえず突き当りまで行って角を曲がろう」 再び足音を立てずに廊下を駆け抜け、突き当りを曲がると、 「あんッ」 という甘い声が耳に飛び込み樹利は『やった!』という様子で目を輝かせ、パリスは額に手を当てた。 締め切った障子の向こうには仄かな明かりと、重なり合う影。
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