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以前は考えられなかった気楽で平淡な毎日が、今、私に与えられたすべてだ。
充実したアフター6。
入社するまではそれが当然だと思っていた時間。
のんびりと自分のために使える日々を過ごしている、のに。
どうしてこんなに、ぽっかり心に穴があいたような気がしてしまうのかしら?
無茶で馬鹿なクライアントに振り回されることもなく。
クライアントに媚びへつらう営業に苛立つこともない。
お飾りとして利用していた上司さえも遠巻きにしていて。
高圧的で尊大な態度を取る制作会社と対立することもない。
私のストレスすべてがなくなったというのに……どうしてこんなに心許ない気分になるのかしら。
ただ、毎日定時にあがる日々が、こんなにも時間を持て余すものだったとは。
忙しく過ごしていたついこの間までを、妙に懐かしく思うせいね、きっと。
ふっと息を吐き、席を立つ。
今日も定時で帰れるけれど、どうしようか……と思っていたら。
「あーら御園、何だか元気がないみたいねーえ?」
そんな風に声をかけられた。
私に対してこんな言い方をするのは一人しかいない。
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