《7》

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  以前は考えられなかった気楽で平淡な毎日が、今、私に与えられたすべてだ。 充実したアフター6。 入社するまではそれが当然だと思っていた時間。 のんびりと自分のために使える日々を過ごしている、のに。 どうしてこんなに、ぽっかり心に穴があいたような気がしてしまうのかしら? 無茶で馬鹿なクライアントに振り回されることもなく。 クライアントに媚びへつらう営業に苛立つこともない。 お飾りとして利用していた上司さえも遠巻きにしていて。 高圧的で尊大な態度を取る制作会社と対立することもない。 私のストレスすべてがなくなったというのに……どうしてこんなに心許ない気分になるのかしら。 ただ、毎日定時にあがる日々が、こんなにも時間を持て余すものだったとは。 忙しく過ごしていたついこの間までを、妙に懐かしく思うせいね、きっと。 ふっと息を吐き、席を立つ。 今日も定時で帰れるけれど、どうしようか……と思っていたら。 「あーら御園、何だか元気がないみたいねーえ?」 そんな風に声をかけられた。 私に対してこんな言い方をするのは一人しかいない。 .
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