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鬱蒼と生い茂る森を、一人の男が走っていた。
その男の表情は、長時間は知り続けた疲労の色などを押し退けて、恐怖に染まっている。
そんな男を追いかける小さな影があった。
その者の表情は、男を追いかけ続けているのにも関わらず余裕のあるモノで、呼吸もほとんど乱れていない。
そしてその者は耳に装着している無線のスイッチを入れる。
「[G]から[F]へ。ターゲットは逃走予想コース・ツーセブンを進行中」
【了解。そのまま直線コースを進行させて、ポイントB―2に誘導して。後は私が上手くやるから】
無線の向こうから指示を貰い、自分を[G]と言った者は少し笑う。
「了解、指定ポイントへの誘導を開始するよ」
[G]はそう言うと、規則正しく前後に振っていた両手の運動を止め、右手を胸の高さに固定した。
すると次の瞬間、[G]の右手から青いオーラのようなモノが放出された。
それはまるで意識を持っているかのように一点に集中し、[G]の手の平に収まるサイズの球体を作り出す。
球体が完成するや否や、[G]は右手を左側に振りかぶる。
その動きに対して球体は右手の動きに合わせて青い軌道を作り、夜の森を妖しく照らす。
そして二十メートル程前方を走る男が進路を右へ変更しようとした瞬間、[G]は右手を水平に素早く振り切った。
すると今までは[G]の右手との一定の位置を保つ為に動いていた球体が、前方にかなりの速度で飛んで行った。
青い弾丸と化したソレは男の身体からほんの少し右側にズレた地面に着弾し、男は悲鳴と共に進路を直進に戻す。
「くそっ!!捕まってたまるか!!」
男はそう言い、今度は進路を左に変更しようとする。
そうなれば[G]は、先程と同じ要領で男の進行方向を強制的に元の方向へ戻す。
その行動が6回ほど繰り返された後、男は今までは森に遮られて届いていなかった月の光を前方に確認する。
(しめた!あの先には確か川が流れていたはず……川に飛び込めば逃げられる!!)
「フヒヒ!!」
男は下品に笑うと、スピードを上げて月の光が見える方向へ走り出す。
男の走るスピードが上がるのを確認した[G]は、球体を作りだすのを止めて再び無線のスイッチを入れる。
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