タコイカ

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 こうして、海の覇権を手にした西側のタコイカ達は喜びに踊り狂った。これで、もう邪魔する東側のタコイカはいない。これからは、自分達の天下だと。  一方、海の彼方へと消えていった東側のタコイカ。彼らは、負けた悔しさを忘れなかった。足を一本減らされ、八本になってしまったが、まだ完全に負けたわけではない。彼らは必ず西側のタコイカに仕返しをすることを誓い、身体を鍛え始めた。二度と負けないよう、足が一本足りないというハンデを克服する為に。  あれから数百年の年月が流れた。西側のタコイカはこの数百年の間、実に優雅な日々を送り続けていた。天下泰平とはまさに、このことをいう。そんな覇権を握った西側のタコイカの海に、東側のタコイカが帰ってきた。  彼らは悔しさをバネに身体を鍛え続け、あの時の悔しさを忘れぬよう身体を真っ赤したままで生活を続けていた。数百年という年月は東側のタコイカの姿を変え、西側とは似ても似つかぬ別物の生き物に変わっていた。足も一本、一本が太く逞しく、一本足りないというハンデすら感じさせなかった。  西側のタコイカといえば、帰ってきた東側のタコイカを見て驚いた。こちらは、十本あるのだから、いつでも追い返せると高を括っていた。ところが、数百年という年月は、東側のタコイカを変貌させてしまった。追い返そうにも、数百年もの間の怠けが響いて、とても太刀打ちできなかった。  東側のタコイカに圧倒的な力の差を見せつけられ、彼らは畏怖した。恐怖のあまり、鮮やかだった身体の色は一瞬にして青ざめ、いや、青いを通り越して真っ白になってしまった。  その姿を見た東側のタコイカは、なんだか可哀想になって仕返しをするのをやめた。怯えきった彼らをやっつけたところで、数百年の恨みなど晴れないし、弱いモノイジメをしたら、数百年前の繰り返しになってしまうから。  西側のタコイカは、これまでの行為を東側のタコイカに詫びた。東側のタコイカも、もう過ぎたことだからと言って、彼らを許した。
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