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ある日、ゆきは幼稚園で飼っているウサギに食べさせる草をとっていた。
ボクも一緒に取っていたが、いつのまにか夢中になって、ゆきから離れていた。
向こうの方で声がする。
「ゆき~。そんなの、ウサギは食べないぞ」
「ホントだ~!ウサギが死んじゃうぞ!」
周りに男子が集まって、ゆきから、手に持った花を取ろうとしていた。
「おい、何やってんだ!」
「虎太郎は、ゆきが好きなんだろ~!気持ちわる~!」
「虎太郎は、ゆきが好きなんだ~!」
周りを取り囲まれて囃し立てられた。
だんだん抑えていた拳が、上に上がってくる。一人がゆきの手から花を奪う。
「わぁぁぁ~!やめてっ!」
ゆきの叫ぶ声を聞いたら、花を奪ったヤツを殴っていた。
鼻血をだして倒れるヤツ。
驚いて逃げるヤツ、先生に云いつけに行くやつ・・・。
でも、そんなのは見えなくて、泣いているゆきに手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「こたクン!」
ゆきは、ボクにしがみ付いて泣いた。
そっと頭をなでてやる。
「こたクン、ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「だって・・・ゆきのせいで。こたクン、たっくんのこと叩いたんだもん」
「あいつが悪いんだ。花はまた一緒に探してやるから」
一緒に花を取っていると先生が呼びに来た。
後日、ママが呼ばれて、お母さんたちに攻められたらしい。
ママが家を出るときに、権藤が呼び止めた。
「姐さん、若は悪くないんです。好きな子がいじめられたんで、助けただけです。若を怒らないでください」
「わかってるわよ、権藤」
ママは踵を返して手をひらひらさせた。
「カタはきっちりつけてくるから」
ママを巻き込んだことだけは後悔した。でもゆきを守ったことに後悔はなかった。
どうやってママがケリを付けたのは知らない。
幼稚園をやめさせられることだけはなかった。
殴った奴らとその友達とは、卒園まで口をきかなかった。
年長になってもう少しで卒業という季節になった。
俺も少しませてきて、ゆきとデートしたいと考えるようになる。
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