記憶

11/40
前へ
/40ページ
次へ
私は軽く挨拶を返すと迷わず いつものカウンター席に座る。 この店に来るようになって早一年半。 最初はかなり緊張していたが 神崎さんの人柄か話しやすく、 いつの間にか常連。 よく会社の愚痴を訊いてもらったり 相談に乗ってもらったり。 あまりに居心地良くて 何度も容子と二人で 閉店まで居続けたことも 何度かあった。 そんな神崎さん相手にもさすがに 今回の事はなんて話を切り出していいのか分からない。 素直にありのまま、 朝起きたら知らない男の人の家にいて 結婚までしちゃってたんだけど 神崎さん何か知らない?  ――なんて言えるわけもなく迷っていると 「咲ちゃん、 昨日大丈夫だった?」 まるで私の祈りが通じたかのよう に神崎さんの方から訊ねてきてくれた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1732人が本棚に入れています
本棚に追加