記憶

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周りが結婚し子供を生んでいく中で 容子だけが安心できる存在だったのだ。 その容子までも結婚を決め、 自分だけが取り残された気分でいっぱいになってしまった。 「――おめでとう」 笑顔でお祝いの言葉を言うことができたが、 誰よりも喜んで上げたいのに、 心の奥底から祝えない自分がいた。 そんな私の気持ちにも気づかず 容子は 「ありがとう」 と本当に嬉しそうに笑う。 ――胸が痛い。 「あのね、 咲穂に今井さんを紹介したかったのもあるんだけど 実はお願いがあるの」 「お願い?」 訊き返す私に頷くと 容子はカバンの中から 一枚の紙を取り出した。 見たのは初めてだったが、 目の前に出されたのは 紛れもなく婚姻届だった。
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