記憶

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「咲穂にサインしてほしいの」 そう言って指さしたのは証人欄のところ。 お互いのところはすでに記入してあって そこだけが空欄となっていた。 「お願い、咲穂」 そう言ってペンを私に差し出す。 「……私でいいの?」 突然の申し出に戸惑い、 なかなかペンを受け取ることができない。 「咲穂がいいの」 今井さんと二人で微笑む。 幸いというか私はいつも印鑑を持ち歩いて、 それを容子は知っていたのだ。 こんなめでたいことを断るのには気は引けたが、 さすがにちょっと荷は重い気がした。 でも容子が私を選んでくれたことが嬉しかった。 だから私は容子からペンを受け取り、 証人欄にサインをするとカバンから判子を出し捺した。
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