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やはり知りたくはないことだと分かってはいても、
記憶がない部分があるということは気分の良いものではなかった。
私にも結婚には期待も憧れもいっぱいあった。
友人の紹介、
偶然の出会いから始まり二年くらい交際を経て大好きな彼からのプロポーズ。
もちろん、
それなりにロマンティックな演出は欲しい。
そしてお互いの両親に挨拶に行って皆から祝福されての結婚式――
なんて……。
今の私には縁遠い事だけど
何の記憶がないまま
好きでもない知らない男と結婚なんてあり得なかった。
せめて抜け落ちた記憶を呼び起こし埋めたい。
もし思い出せたら、
この男の事を少しは好きになれるかもしれないと、
可能性のかなり薄い期待を抱いてしまった。
「お前、
本当に覚えてねぇの?
言っとくけど婚姻は成立しているから
今さら俺はどうこうするつもりはないからな。
それでもいいなら教えるけど?」
男は少し苛立ちを漂わせ、
自分の意思を強く主張し
私に念を押した。
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