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いつもより少し遅めの退社。
それでもユキが帰ってくるまでには十分、
間に合う時間帯。
それなのに私はつい急いでしまい、
足早に会社を出てやっと駅に辿り着き、
ホッと一息ついたとき
「咲ちゃん」
聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
反射的に足を止め、
その声の主を混み合う人混みの中を探す。
人が多い割に意外とすぐにその姿をとらえ、
予想通りの人物に私はつい表情を曇らせる。
「そんな顔しないでよ。
忘れた?」
馴れ馴れしい調子で私の方に歩み寄る男。
それは紛れもなくユキの同僚で、
友人の佐藤さんだった。
本来なら社交辞令に笑顔のひとつでも振り向けなければいけない
って分かっているのに、
この間の事が脳裏に横切りなかなかできない。
私は本能的に佐藤という人物を危険視してしまっていた。
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