2/26
前へ
/26ページ
次へ
いつもより少し遅めの退社。 それでもユキが帰ってくるまでには十分、 間に合う時間帯。 それなのに私はつい急いでしまい、 足早に会社を出てやっと駅に辿り着き、 ホッと一息ついたとき 「咲ちゃん」 聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。 反射的に足を止め、 その声の主を混み合う人混みの中を探す。 人が多い割に意外とすぐにその姿をとらえ、 予想通りの人物に私はつい表情を曇らせる。 「そんな顔しないでよ。 忘れた?」 馴れ馴れしい調子で私の方に歩み寄る男。 それは紛れもなくユキの同僚で、 友人の佐藤さんだった。 本来なら社交辞令に笑顔のひとつでも振り向けなければいけない って分かっているのに、 この間の事が脳裏に横切りなかなかできない。 私は本能的に佐藤という人物を危険視してしまっていた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1369人が本棚に入れています
本棚に追加