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嫌味なくらい手入れの整った庭。
無駄に広い家で家の中に居ても
笑い声どころか人の気配すら感じにくい家。
殆ど会話もない冷めた家族。
いい思い出なんて一つもない。
蘇る古い記憶に一歩一歩足を進めるにつれ、
俺の胸はキシキシと痛み出す。
玄関から真っ直ぐ廊下を歩き正面のドアの前に立ち止まる。
このドアの向こうが一応リビングだが、
人の気配が全くしない。
それよりも俺たちが玄関から普通に家に上り込んでも
誰一人として気づかないのが可笑しい。
――それが俺の家。
「大丈夫か?」
緊張している咲穂を気遣うフリをしながら自分に問いかける。
咲穂は表情を強張らせながらドアを見て
深呼吸するとゆっくりと頷いてみせた。
俺は咲穂を合図に自分自身も決心を固め、
緊張の面持ちでドアを開けた。
「由貴?」
ドアを開けた瞬間、
母親に名を呼ばれ驚いた。
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