小さな落とし穴

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愛子とはあの日、 神崎の店で別れて以来で、 あれから何の音沙汰もなかった。 気にはなっていたが、 あれ以上深入りするわけにもいかないし、 何より俺たちのことでバタバタしていてそれどころではなかった。 「どれ? 見せてみろ」 言いながら咲穂に歩みより荷物を受け取ると、 差出人の名前を確認する。 差出人の名前は佐田 愛子 ――愛子からだった。 咲穂は愛子の本名をきちんと知らないから 確信が持てなかったのだろう。 「愛子だよ。 佐田は嫁ぎ先の名字。 上手くいってるみたいだな」 佐藤のことを思うと胸が痛むが、 やっぱり愛子が幸せなのは嬉しい。 共に似た苦しみを持っていた愛子。 俺だけが咲穂のお陰で 長年のジレンマから解放たのは何となく心苦しく感じていた。 他人事なのに、 あまりに似ていた愛子のことは 他人事のように思えず幸せを願わずにはいられないのだ。
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