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まるで愛子とのことがなかったかのように……
愛子が戻ってくる前の頃のように“いつもの佐藤”がそこに居る。
ただ俺を無駄に絡んできたり呑みに誘ってくることはなくなった。
「やだ、
もうこんな時間。
お風呂入ってくるね」
少し記憶を辿りながら考え事をしていると、
声をかける間もないくらい慌しく風呂場へと消えていってしまった。
――またタイミングを逃してしまった。
俺は咲穂が出ていったドアの方を見つめ、
頭を抱え崩れるようにしゃがみこむ。
挨拶に行くことになり言わなきゃ、
言わなきゃと思っていたが最近バタバタしていて
判子の事を言われるまで婚姻届のことをすっかり忘れていた俺が悪い。
婚姻届のことを決して軽く思っていたわけではないが、
あまりに幸せすぎて……
所詮、
婚姻届なんて紙切れで気持ちを縛れるものでもない。
でも俺たちが世間で夫婦と認められるためには必要不可欠なものに違いない。
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