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いつの間にか寝ていた。
「う……」
何故だろう。ぐっすり眠れた気がする。不思議に思って右手を見る。そこにあった煙草が消えていた。
立ち上がって辺りを見回したが、何処にも落ちていない。
「……おかしいな」
呟きはすぐに空気に溶けて消えた。空は既に茜色に染まっている。
「やっと起きたか」
不意に、背後で声が聞こえた。俺は振り返ると、その男の顔を見てすぐに戦闘体勢に入る。
「…何の用だよ、橋田」
ひょろりと細長い手足と胴体。分厚いレンズの黒縁眼鏡に、不精髭。ボサボサに伸びた黒髪。この男こそ俺の大嫌いな教師、橋田孝則だ。
36にもなって独身となると、余程女にモテないのだろう。それを思うと少し気の毒にはなるが。俺はこいつに心を許さない。入学した時から決めている。
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